マイ・フェイバリット・ワード

myfavoriteword.com という英語のサイトがある。読者が自分の好きな言葉とその理由を投稿するシステムになっていたそうだが、残念ながら今は稼働していない。トップページさえ表示されない状態だ。ただ、静的なHTML(A.html〜Z.html)だけは生きているので、今でもかつての投稿を見ることができる。(リンク:A, B, C, D, E, F, G, H, I, J, K, L, M, N, O, P, Q, R, S, T, U, V, W, X, Y, Z

聞いたこともない、(英語を母語とする人にとってすら)珍しすぎる単語が多く、なおかつ量も少ないのでボキャブラリー強化のためにはまったく使えないが、投稿者によって添えられたパーソナルな逸話を読むのはよい暇つぶしになる。早くシステムが復旧して、質・量ともにもっと充実するといいなと思っている。素敵なドメインネームが泣いているよ。

いくつかピックアップして紹介する。


Abstruse ─ [形容詞]難解な

私の父はお金持ちでも、学があるわけでもなかった。公立高校に通っていたときの話を聞く限りは、卒業したのかどうかも定かではない。ひょっとしたら卒業しなかったのかも。それはともかく、父は言葉を愛していた。誰にも語彙を奪うことはできないから、豊富な語彙を身につけることはお金持ちになることよりも価値があるんだよと教えてくれた。父は、本ではみたこともないような詩を教えてくれたし、掛け算の覚え方をおもしろい歌とともに教えてくれたりもした。そしてなにより、私は父から、言葉を愛することを学んだ。"abstruse" は最初に教わった言葉のうちのひとつだ。口に出した時の、舌の上を滑っていくような感じもいいし、音が耳のまわりを跳ねる感じもいい。私は55年生きてきたなかで、この言葉を6回も使ってないと思うが、それでもこれは私にとってかけがえのない言葉だ。なぜなら、これは父が私の心に植えくれた種で、そこから育った花が私の人生を明るく照らしてきてくれたのだから。

KR Mullin

Amoeba ─ [名詞]アメーバ

なんといっても "amoeba" が一番好きな言葉だ。小学生のときに覚えた単語で、意味は知らなかったがきれいな言葉だなと感じていた。後に意味を知って、アメーバ自体なにも美しくないと分かったが、意味なんかおかまいなしにこの言葉を楽しむことにした。

音の響きが素晴らしいことはもちろんのこととして、私がこれを好きなのは、脈絡なくこの言葉を言って友達を驚かすのが楽しいからだ。最新のベストセラー本について語っているとき、ちょっと考えるためのポーズをおいてから、突如として「アメーバ」と注意深く発音するの。それを言うのがただ単に楽しいから。それを聞いた友達は私のことを不思議そうに見ながら、「こいつ今、脈絡なくアメーバって言った?いや、幻聴だった?」って考えるでしょ。そのうちに私は考えをまとめて再び話し始めちゃうの。

あぁ、奇妙で馬鹿げた愉しみよ。

Alexi Maxwell

Catenary ─ [名詞]懸垂線

私の好きな言葉は "catenary"。なぜって、カレがメールの終わりをこう結んでくれたの。「君の背中にキスの catenary を」って。科学的っぽいのと同時にセクシーに響くでしょ。あと、猫(cat)とカナリア(canary)をくっつけた音になってるのも楽しい。

Andrea

Cerulean ─ [形容詞]空色の

一番のお気に入りは、"cerulean"。小学生のころ読んだ本に、「cerulean blue」の瞳を持った人形がでてきた。当時私は10歳かそこらで、それがどういうことなのか全然わからなかった。私は、世界で一番綺麗な瞳を持った人形っていう風に考えた。"cerulean" という言葉は神秘的で、東洋の地からくる響きがあるように思えた。だから、これがただ単に色のことを意味すると知った時は、がっかりしてしまった。でも、今でもこの言葉を聞くと、子どものころの記憶、そして楽しかった読書の時間を思い出す。

Lauren Goodwyn

Dunderhead ─ [名詞]愚か者

私が仕事で毎日相手をしないといけない人たちを表すのにこの言葉はとても便利だ。なぜって、あのタイプの輩には、これは丁寧な言葉だと受け取られて本当の意味はたいがい伝わらないものだから。

「あなた本当に Dunderhead ですね」と笑顔で言うと、あいつらお世辞を言われたと勘違いするんだ。こっちは内心ニヤニヤしちゃってるのだ。

Marjorie Ervin

Explosion ─ [名詞]爆発

好きな言葉は "explosion"。なぜって、息子が4歳のときにこんなことがあった ── その日、仕事からくたくたになって帰ってきたら、玄関で息子がいつもの満面の笑顔とハグで迎えてくれた。「パパ、パパ。今日テレビでね、あれ見てたらね、こんなにすごい……EXPLOSION!」 最初のふたつの音節の間(exとploの間)に絶妙なタメを置いて、"ex... PLOOO-sion!"と楽しそうに叫んでいるのをみて、あぁこの子は "explosion" って言葉を言うだけですごく楽しい気持ちになれて、それは俺が今日一日で感じた楽しさを全部合わせた以上のものなんだろうと分かった。息子が元気いっぱいに言うこの言葉が俺は大好きだ。

Vic

Home ─ [名詞]家

Home。そこに居たくともそれが許されなかったことが幾度あったことか。第二次大戦中は、ロンドンの家で暮らすことはできず、学校ごと田舎に疎開させられた。

未亡人になった私は、子供を家にのこして仕事に行かなければならなかった。心配だった。

「I'm home(ただいま)」をいままで本当にたくさん言ってきた。その時々留守にした時間は、数分間、数時間、数日間、そして7年間といろいろだった。

Dorice Smith

Hoodwink ─ [動詞]だます

ティーンエイジャーの息子と会話しているときに、これは本当のことを話してくれていないなと感じたことがあった。でも、「嘘ついてるの?」とは聞きたくなかった。そんなときに思い出したのがこの言葉。自分の思い違いだったとしても場を険悪にしないユーモラスな言葉ってあるでしょう。これはそんな言葉だ。私のことを hoodwink しようとしてるんじゃないのか、と息子に質したら、息子は一瞬きょとんとしてから、そんな言葉はないよと笑い出した。私達は辞書を引き、そこにはちゃんと載っていた。この言葉は子供の頃に聞いた記憶がおぼろげながらあるが、少なくともこの30年間は使ったことも聞いたこともないと思う。で、息子はというと、私を hoodwink しようとしていたのだった。

Shona Brown

Indeed ─ [副詞]たしかに

電話で一時間は続く姉のおしゃべりに付き合うのに、この言葉さえ言っておけばなんとかなる。向こうの話しぶりに応じて、驚いた感じ/同情してる感じ/熱心に同意する感じをこの言葉のイントネーションで出しとけばオーケー。こんな便利な言葉はないよ。

Phil White

Mellifluous ─ [形容詞]滑らかな、甘美な響きのする

僕が初めてこの言葉に出会った時は、これがなにを意味するのか見当もつかなかった。高校時代に彼女からもらった手紙に書かれていたんだ。そのスペルは正しくなかったんだけど、なんとか辞書で引くことはできた。僕の声を形容するのに使われていた。(ヒュー、ヒュー!)

それからこの言葉が大好きになった。本当に稀にしか使われないところも、音が滑らかに流れるようなところもいいよね。

Marty, New Jersey

Quincunx ─ [名詞](サイコロの5の目のように配置された)5点形

子供の頃、ランダムハウスのバインダー式辞書を持っていた。背の高さが6インチもある大きなものだった。いや、実際はそんなになかったかもしれないけど、少なくとも私にはそう思えた。いつも目に入る項目が、この言葉だった。エキゾチックに見えたその言葉は、5つの点の単純な並べ方を表すものだった。何年かしてその辞書はバラバラに分解してしまい、他のものに買い換えられた。そして時間とともに quincunx については忘れてしまった。

夫に出会ったとき、彼の本棚に "Quincunx" という名前の本があるのに気がついた。夫を好きになった理由はいろいろあるけど、この "Quincunx" に運命みたいなものを感じたことも大きかった。

ところで、私はまだその本を読んでいない。魔法が解けてしまいそうな気がして。

Denise D. Simon

暗号通貨は第5のプロトコルとなるか

ビットコインの技術によって可能になるかもしれないインターネットの未来について、わくわくするようなブログポストを読んだので翻訳した。著者はエンジェル投資家の Naval Ravikant(http://startupboy.com/about/)。ちなみにここで描かれるような未来を実現しようという野心をもったプロジェクトに、Ethereum(https://www.ethereum.org/)がある。

元記事:The Fifth Protocol http://startupboy.com/2014/04/01/the-fifth-protocol/


第5のプロトコル

暗号通貨は次世代インターネットを支える第5のプロトコル層となるだろう。

数学に基礎をおく暗号通貨は、生身の人間が他の人とやりとりするときに必要とされるものではない。人間はゆっくり歩いて、ゆっくり話して、ある程度の大きさがあるモノを買う。クレジットカード、現金、銀行振込、小切手で事足りるだろう。

一方、機械はというと、とてつもない量とスピードで情報をやりとりする。4つの層からなるインターネット・プロトコル・スイートは絶え間なくコミュニケートしている。リンク層はパケットを回線に送る。インターネット層はネットワーク上でそれらを配送する。トランスポート層はデータの伝達を確実なものにする。そしてアプリケーション層は、完全なデータの記録とその表現を可能にする。

ただ、この無色透明でおしゃべりなネットワークは、リソースを「タダ同然のもの」として扱う。それは、データを転送するだけの巨大な格子であって、価値を転送するものではない。DDoS攻撃、スパムメール、VPNの回線パンクなどが起こるのはこのためだ。名前と身分は中央機関によって ── つまり、ICANN、DNSサーバ、Facebook、Twitter、公開鍵証明書認証局などによって ── 管理される。

では、単なるデータではなく、価値をやりとりするためのプロトコル層はどこにあるのだろう。このおしゃべりな機械が希少なリソースを分配するための、分散型で、匿名性があって、開かれたシステムはどこにあるのか。このネットワーク上に「バーチャル経済」をつくるための「バーチャルマネー」はどこにあるのだろうか。

ビットコインのような暗号通貨は、すでに信用を前提することなしにまわっている。受け手、送り手の機械がなんであろうとも、コインのやりとりはセキュアに遂行される。このやりとりは、(ほとんど)タダで行える。また、グローバルに行える。つまり、中央銀行は必要なく、あらゆる機械同士が同じ言葉でコミュニケートできる。そして、即時性匿名性認証能力の獲得まで、あと一歩か二歩のところまできている。

いま仮にクイックコインなるものがあったとして、トランザクションをほとんど瞬時のうちに、かつ匿名で清算でき、それに必要な採掘フィーも無視できるほど小さいとしよう。そこではセキュリティのために、あるいは売買を容易にするために、ビットコインのブロックチェイン機構が採用できるだろう。SMTPは、スパムを取り除くためにクイックコインを利用できるかもしれない。ルーターはDDoS攻撃をシャットダウンするためにクイックコインの交換を要求するだろう。Torゲートウェイは匿名ルーティングのために、クイックコインを利用するだろう。機械は、中央集権的なDNSやOAuthサーバを使わなくても済むように、このコインで所有権の証明を行うようになるだろう。

ひとつのコインで終わらせる必要はない。いろんな「アプコイン」が考えられる。アプリケーション固有コインを使えば、オープンソース開発者に採掘前のコインを報酬として与えられる。Torコインは、proof-of-bandwidth(訳注:ビットコインのproof-of-workに相当)を通じて達成されたコンセンサスにもとづき、ユーザー側から開発者とゲートウェイに支払われる。このようにして、あらゆる希少ネットワークリソースを分配することができる。ストレージのためのボックスコインだとか、キャッシュ(Cache)のためのキャッシュコインだとか。

他の種類のネットワークに目を向けてみよう。完全に分散した小さな発電所からなるグリッドは、分権的かつ信用を前提としない暗号通貨を用いて電力取引できるだろうか。機械化された自動走行車が道の使用権オークションに入札するようになれば、渋滞はなくなるだろうか。群衆が道を渡り終えるまで一台の車を信号待ちさせるというような優先付けを、歩行者とドライバーの携帯電話に自動投票させることで決定できないだろうか ── 信頼を前提とせずかつ安全確実にという条件もつけて。水や電気といった資源、あるいは汚染物質や下水といった負の資源を、分散グリッド上で効率よく配送できないだろうか。株式や金融資産を、ブローカーや証券会社やエージェントなしに取り引きできないだろうか。

暗号通貨は電子的なお金だ。なので、価値を交換したり、契約の妥当性をチェックしたり、身分や評判のトラッキングをするために電子的手段が用いられる。そう考えると突如として、ビットコイン採掘に用いられた計算リソースは無駄ではないのだと感じられる。他のネットワークリソースの輻輳制御や転送にも応用できることもあわせると、むしろ効率的な使い方に思えてくる。

暗号通貨は、インターネットに新たな特性を与えるものである。インターネット第5のプロトコルといってしまってもよいだろう。もしナカモト・サトシが存在しなかったとしても、誰かが必ず発明しなくてはいけないものであった。いつの日か暗号通貨は、価値の交換とコンセンサスの形成を瞬時に匿名かつ最小限のコストで行うために、ネットワーク上の/机の上の/ガレージの中の/ポケットの中のあらゆる機械によって使われるようになるだろう。

その日が来たら、私たちの頼る巨大な分散ネットワークは今とはだいぶ違う姿になっているはずだ。インターネットを筆頭に、あらゆるネットワークは分権化された経済圏を形成し、今日のそれより遥かにインテリジェントなものとなる。ちょうど人間の脳が、知らない人同士でモノの売買や交換をする能力と共進化してきたように、ネットワークもまた、知らないノード同士で通貨や契約をやりとりすることを学びながらよりインテリジェントなものへと成長するだろう。

最終的にはインターネットも、モノのインターネット(Internet of Things)も、この新たなプロトコル層で暗号通貨と高度に統合されることなしには考えられなくなるだろう。この第5プロトコルのスイッチをオフにすることは不可能になる。価値の交換と保存をする手段としての暗号通貨もまた存在し続けるだろう。そして、かつて資本をコントロールする権限を持っていた国家は、極めて難しい決断を迫られることになる。暗号通貨を禁止すれば、ゴミ同然の古い技術の中で生きることになる。暗号通貨を認めれば、それ ── ウィルス、信仰、プロトコル、まぁなんとでも ── は、パケットに加え、お金と言葉のグローバルで制限のない流れを生むことになるだろう。

テレンス・タオによる数学の学び方「バカな質問を自問し、それに答えよう」

[翻訳]テレンス・タオによる数学の学び方に関するアドバイス: "Ask yourself dumb questions – and answer them!"


バカな質問を自問し、それに答えよう

本で自習するにせよ講義を聴講するにせよ、数学を学ぶとき目にするのは、完成された結果だけです。それは、ぴかぴかに磨かれ、周到に考えられ、なおかつエレガントに表現されています。

しかし、数学で新しいことを発見するプロセスは、もっともっと泥臭いものです。勘違いしたり、実りのないことしたり、無意味なことやったりという試行錯誤の積み重ねです。

こういう「失敗した」試みはなかったことにしたいかもしれませんが、数学を深く理解するためにこれは絶対に必要なことなのです。このプロセスこそが、(とるべき選択肢を絞ってくれることで)最終的な正しい道へあなたを導いてくれるのですから。

なので、一般に正しいとされている道から外れた「バカな」質問をするのを恐れてはいけません。そういう質問に答えることが驚くべき結果を生むということもあるのですから。でも、ほとんどの場合は、正しいとされている元の道がなぜ正しかったのかということを確認することになるでしょう。それはそれでとても意義があります。

例えば、標準的な補題に対して、要請される仮定をひとつなくしてみたり、もっと強い主張にしてみたりといった変更をしたらどうなるのか問うてみましょう。方法Xで証明される簡単な主張を、代わりに方法Yを使って証明できるか問うてみましょう。方法Yを使った新しい証明は、元のにくらべてエレガントでないかもしれません。あるいは、そもそもまったく証明できないかもしれません。どちらにせよ、方法XとYそれぞれの強さの関係が明らかになって、非標準的な補題を証明しようとするときの指針となるでしょう。

講義を聴講する際、そこで話されている基本的な事柄を明確にするために、「バカな」しかし建設的な質問をするのもよいことです。(例:主張Xは主張Yを導くか、またその逆はどうか。講義で導入された専門用語が、似た響きを持つ他の用語と関係あるのかどうか、などなど。)もし質問をしなければ、そこから後の話についていけなくなってしまいます。講義をする人はたいていの場合、そういうフィードバックを歓迎し(聴衆のうち少なくとも一人は話を聞いていたんだって分かるからね)、あなたとその他の聴講者に対してよりよい説明をする機会が得られたとうれしく思うでしょう。ただし、話の流れとあまり関係ない質問であれば、講義の最後にするのがよいでしょう。

次の記事も参考にしてください。:"Learn the limitations of your tools", "Be sceptical of your own work".