暗号通貨は第5のプロトコルとなるか

ビットコインの技術によって可能になるかもしれないインターネットの未来について、わくわくするようなブログポストを読んだので翻訳した。著者はエンジェル投資家の Naval Ravikant(http://startupboy.com/about/)。ちなみにここで描かれるような未来を実現しようという野心をもったプロジェクトに、Ethereum(https://www.ethereum.org/)がある。

元記事:The Fifth Protocol http://startupboy.com/2014/04/01/the-fifth-protocol/


第5のプロトコル

暗号通貨は次世代インターネットを支える第5のプロトコル層となるだろう。

数学に基礎をおく暗号通貨は、生身の人間が他の人とやりとりするときに必要とされるものではない。人間はゆっくり歩いて、ゆっくり話して、ある程度の大きさがあるモノを買う。クレジットカード、現金、銀行振込、小切手で事足りるだろう。

一方、機械はというと、とてつもない量とスピードで情報をやりとりする。4つの層からなるインターネット・プロトコル・スイートは絶え間なくコミュニケートしている。リンク層はパケットを回線に送る。インターネット層はネットワーク上でそれらを配送する。トランスポート層はデータの伝達を確実なものにする。そしてアプリケーション層は、完全なデータの記録とその表現を可能にする。

ただ、この無色透明でおしゃべりなネットワークは、リソースを「タダ同然のもの」として扱う。それは、データを転送するだけの巨大な格子であって、価値を転送するものではない。DDoS攻撃、スパムメール、VPNの回線パンクなどが起こるのはこのためだ。名前と身分は中央機関によって ── つまり、ICANN、DNSサーバ、Facebook、Twitter、公開鍵証明書認証局などによって ── 管理される。

では、単なるデータではなく、価値をやりとりするためのプロトコル層はどこにあるのだろう。このおしゃべりな機械が希少なリソースを分配するための、分散型で、匿名性があって、開かれたシステムはどこにあるのか。このネットワーク上に「バーチャル経済」をつくるための「バーチャルマネー」はどこにあるのだろうか。

ビットコインのような暗号通貨は、すでに信用を前提することなしにまわっている。受け手、送り手の機械がなんであろうとも、コインのやりとりはセキュアに遂行される。このやりとりは、(ほとんど)タダで行える。また、グローバルに行える。つまり、中央銀行は必要なく、あらゆる機械同士が同じ言葉でコミュニケートできる。そして、即時性匿名性認証能力の獲得まで、あと一歩か二歩のところまできている。

いま仮にクイックコインなるものがあったとして、トランザクションをほとんど瞬時のうちに、かつ匿名で清算でき、それに必要な採掘フィーも無視できるほど小さいとしよう。そこではセキュリティのために、あるいは売買を容易にするために、ビットコインのブロックチェイン機構が採用できるだろう。SMTPは、スパムを取り除くためにクイックコインを利用できるかもしれない。ルーターはDDoS攻撃をシャットダウンするためにクイックコインの交換を要求するだろう。Torゲートウェイは匿名ルーティングのために、クイックコインを利用するだろう。機械は、中央集権的なDNSやOAuthサーバを使わなくても済むように、このコインで所有権の証明を行うようになるだろう。

ひとつのコインで終わらせる必要はない。いろんな「アプコイン」が考えられる。アプリケーション固有コインを使えば、オープンソース開発者に採掘前のコインを報酬として与えられる。Torコインは、proof-of-bandwidth(訳注:ビットコインのproof-of-workに相当)を通じて達成されたコンセンサスにもとづき、ユーザー側から開発者とゲートウェイに支払われる。このようにして、あらゆる希少ネットワークリソースを分配することができる。ストレージのためのボックスコインだとか、キャッシュ(Cache)のためのキャッシュコインだとか。

他の種類のネットワークに目を向けてみよう。完全に分散した小さな発電所からなるグリッドは、分権的かつ信用を前提としない暗号通貨を用いて電力取引できるだろうか。機械化された自動走行車が道の使用権オークションに入札するようになれば、渋滞はなくなるだろうか。群衆が道を渡り終えるまで一台の車を信号待ちさせるというような優先付けを、歩行者とドライバーの携帯電話に自動投票させることで決定できないだろうか ── 信頼を前提とせずかつ安全確実にという条件もつけて。水や電気といった資源、あるいは汚染物質や下水といった負の資源を、分散グリッド上で効率よく配送できないだろうか。株式や金融資産を、ブローカーや証券会社やエージェントなしに取り引きできないだろうか。

暗号通貨は電子的なお金だ。なので、価値を交換したり、契約の妥当性をチェックしたり、身分や評判のトラッキングをするために電子的手段が用いられる。そう考えると突如として、ビットコイン採掘に用いられた計算リソースは無駄ではないのだと感じられる。他のネットワークリソースの輻輳制御や転送にも応用できることもあわせると、むしろ効率的な使い方に思えてくる。

暗号通貨は、インターネットに新たな特性を与えるものである。インターネット第5のプロトコルといってしまってもよいだろう。もしナカモト・サトシが存在しなかったとしても、誰かが必ず発明しなくてはいけないものであった。いつの日か暗号通貨は、価値の交換とコンセンサスの形成を瞬時に匿名かつ最小限のコストで行うために、ネットワーク上の/机の上の/ガレージの中の/ポケットの中のあらゆる機械によって使われるようになるだろう。

その日が来たら、私たちの頼る巨大な分散ネットワークは今とはだいぶ違う姿になっているはずだ。インターネットを筆頭に、あらゆるネットワークは分権化された経済圏を形成し、今日のそれより遥かにインテリジェントなものとなる。ちょうど人間の脳が、知らない人同士でモノの売買や交換をする能力と共進化してきたように、ネットワークもまた、知らないノード同士で通貨や契約をやりとりすることを学びながらよりインテリジェントなものへと成長するだろう。

最終的にはインターネットも、モノのインターネット(Internet of Things)も、この新たなプロトコル層で暗号通貨と高度に統合されることなしには考えられなくなるだろう。この第5プロトコルのスイッチをオフにすることは不可能になる。価値の交換と保存をする手段としての暗号通貨もまた存在し続けるだろう。そして、かつて資本をコントロールする権限を持っていた国家は、極めて難しい決断を迫られることになる。暗号通貨を禁止すれば、ゴミ同然の古い技術の中で生きることになる。暗号通貨を認めれば、それ ── ウィルス、信仰、プロトコル、まぁなんとでも ── は、パケットに加え、お金と言葉のグローバルで制限のない流れを生むことになるだろう。